「沖にウサギが走る」という言葉を聞いたことがありますか?
幼いころ、父からよく聞いた言葉です。「今日は ウサギが走っているしアカンなぁ!」 海へ向かう道中、そんな時は決まって予定変更、船釣りは中止です。
国道367号線で朽木村を通って303号線、27号線を経由して、県道を進むと小浜城跡あたりの河口に出ます。すると目の前に小浜湾がパッと開け、海が見えるポイントを通過します。
その一瞬、波の高さやうねりを確認するのですが、風が強い日は波の上部の水面がバシャバシャと白く跳ね、まるでウサギが走っているかのように見えます。その風波こそが「ウサギが走る」の正体です。いくら天気が良くても、沖にウサギが走っていれば船の運航にも影響し、釣りにならないような強風の目安です。
さて、釣りは魚との駆け引き、緊張感、釣り上げた時の喜びや、心地よい疲労感もあり、とても楽しい遊びのひとつです。私たち家族にとっては、大切なコミュニケーションの時間でもあり、その楽しみをみんなで共有できたことが、ずっと心に残っています。
父は他界していますが、85歳の母はいまだに「釣りに行きたい」と言うので、釣り堀や、レンタルボートを借りて海に連れていくことがあります。天気が悪くても、大波に揺られても、魚が釣れなくても、帰り道ではとても楽しそうに話をしています。孫に父との昔話を聞かせたり、海を眺めのんびりしたり・・・、きっと母にとってはとても贅沢な時間なのでしょう。
私自身も50代になり、釣りが老後の楽しみの一つと考えるようになりました。コロナ渦の外出自粛期間を利用して、父と同じ1級小型船舶操縦士にステップアップし、大きな魚、おいしい魚を狙って少し沖合まで船を走らせています。
スマホを「ポチッ」とするだけで、海のコンディションが簡単に予測できるようになった今でも、父から教わった「ウサギが走る」という言葉は、いつも海に行くと思い出します。その言葉は、家族をがっかりさせることなく、危険から守り、楽しい時間を過ごすための父の教えだったのかもしれません。
私には家族との思い出がよみがえる瞬間があります。あわただしく過ぎてゆく日々、皆さんも、たまには思い出に浸る時間を作ってみてはいかがでしょう。