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2022年12月16日(金)

「お服加減はいかがでございますか?」京都岡本記念病院 和田香織

心を込めて練ったお濃茶を、お客様へお出しする緊張の瞬間です。

  

皆様にも、新型コロナ感染症の流行で、諦めたイベントはありませんか?
私にとっては、茶道のお稽古もその中の一つです。

一般的にイメージされるお抹茶というと、表面にふわっとした泡がある薄茶にあたりますが、茶道ではお茶というと、主に「お濃茶」を指し、数人で回し飲み、お茶碗は手渡しで頂くのが一般的な作法です。

このコロナ禍で回し飲みと手渡しは・・・となりますよね。

 

 

お茶は中国より伝来し、時代を経て、千利休が茶の湯と言われる文化(茶道)に大成し、現代に至ります。

その中で、「茶事」と呼ばれるイベントは、お濃茶を美味しくいただくためのもの。

亭主(招く側)は、懐石や酒、お菓子など、時候に合わせて取り合わせ、とっておきの茶道具も添えて、「おもてなし」します。

すべてはお濃茶を最高の状態で召し上がっていただくため。 日常のお稽古では、主に茶事で行うお点前を練習しますが、お濃茶を美味しく練るにも練習が必要なのです。

 

実際に濃茶を練ってみましょう。(薄茶は立てる、濃茶は練る、と表現します。)

濃茶の分量についてインターネットで検索してみたところ、色々ありましたが、

一人前  抹茶 4gに対し、湯 30~40㎖が多いようです。

臨床検査技師としては、精度管理的には、電子天秤で抹茶4gを秤量、100㎖くらいのメスシリンダーで湯30㎖を計量、というところでしょうか。

お点前では、薬匙みたいな形状をした竹の茶杓を使って抹茶を3杓掬い、直径5㎝位の竹のお玉のような柄杓を使って、分量の8割程度の湯を注ぎ入れて練ったあと、もう一度残り2割の湯を注ぎ入れ馴染ませて完成です。

「一人分のお濃茶を練るのは難しい」と先輩方も仰いますが、文字にして納得です。

茶杓で掬える抹茶の分量は毎回違うのに3杓、柄杓から注ぐ湯は目分量。

抹茶の量に合わせて湯量を調整できるようになるには、練習しかありません。

 

あれ?回し飲みは??ですよね。

実際のお茶事では、お客様がお一人のみ、ということはなく、数人分を一碗に練ることが多いです。

抹茶はあらかじめ人数分を(茶杓で)計量して、茶入と呼ばれる入れ物に準備します。お点前では、お茶碗に3杓掬い出した後、残りを全部回し出しするため、茶量のバラつきは小さくなります。湯量も当然多くなりますが、相対誤差は小さくなるので、より安定した濃茶を練ることができると考えられますね。

練りやすい、ということは、美味しく頂ける、ということにもなります。

 

 

さて、一時的にお休みしていたお稽古も、感染対策を万全にして再開しました。

お家元が提示された感染対策のひとつに、お濃茶に関しては「各服立」を推奨されています。これは明治時代に流行り病(コレラ)が猛威を振るったことから、当時のお家元が考案されたお点前です。各々に一服ずつ(一人前)をまとめて練るので、感染対策としては最適ですが、前述したようにあまり美味しくない・・・

そこで、通っているお稽古場では、注ぎ口付の器を茶碗と見立て、数人前のお濃茶を練った後、小茶碗に分注する方法で頂いています。少し冷めてしまうのが難点です。

お点前としては本来の手順から逸脱しているのですが、他にも茶巾は毎回交換するなど、見なしでも行っていますので、一時的なものとしては許容範囲ではないかと思っています。

 

 

それにしても、このコロナ禍はいつまで続くのでしょう?

色々工夫しても、肝心のお濃茶が美味しく頂けなければ、楽しさも半減してしまいます。

コロナ禍が終息しても、以前のように回し飲みができるようになるのでしょうか?

特にお稽古を始めたばかりの方たちには、心理的に回し飲みは難しいでしょう。

時代とともに変わりゆくもの、として、お点前は少し変化するかもしれません。

それでもお茶を楽しむ心は変わらないでいたい。

いつかまた、美味しいお濃茶を手渡して頂ける、そんな日が戻ってくるのを心待ちに、文化を繋いでいきたいと思います。

 どうぞ、お召し上がりください。

和田 香織(宗香)